9時。喫茶店。

隣の席にマフラーとヤンジャンだけ置いてある。

現れたのは、可も不可もないカジュアルな身なりの、美人が不細工かでいうと完全に地味。
幸薄い感じの女。

コレがヒールの音をヤケに響かす。
“コッ、コッ” ではなく “ゴゴッ、ゴッ” 。
コーヒーだ、灰皿だ、紙ナプキンだといったりきたり。

ヘンにバタついてて気になった。何となくで、バカっぽい。

ひとしきり必要な物が揃ったのか、椅子の上に置いた白いバックに首突っ込みそうな姿勢でモゾモゾモゾ。30秒。
タバコを取り出した。
もう一回同じこと繰り返して、今度はライター。
でセッティングが済んで腰をおろした。

マフラーとヤンジャンとコーヒーと灰皿とナプキンとタバコとライターと幾つかの不幸でセッティングが完了した卓上に、ヤンジャン取ろうと伸ばした手が、蓋付きの紙製コーヒーカップを、弾き、倒す。

“案の定”

瞬間、そう想った。

自分のヤンジャンとマフラーと場の雰囲気を甘めのコーヒーまみれにした幸薄は、店員呼んで、掃除を頼み、最中一言。

“もういっていっすか?”

“消えてくれ”

正直、そう想った。

セレブの要件
セレブリティな女子は、指先まで、神経を張り巡らせよう。
セレブリティな女子は、ヒールのかかとの先まで、神経を張り巡らせよう。
もっとセレブな女子は、そこに居るみんなの気持ちにも、神経を張り巡らせよう。