フラット化する世界 [増補改訂版] (上)

フラット化する世界 [増補改訂版] (下)

トーマス・フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
The World Is Flat – A Brief History of the Twenty-first Century –

上下刊、1週間程かかってやっと読み終わりました。
楽しかったので、疲れはありませんが。

内容についてとーーっても端折った言い方をしてしまいますと、
テクノロジの進歩により、世界中の住人が政治的、地理的な優位性の偏りが減少し、個人が手にするチャンスや所得はその個人の能力に依る部分が大きくなります。
そういう時代がやってきましたがどう生きてゆきましょうか、という話になります。


book "The World Is Flat"
もう少し、詳しく説明しますと、
インターネットを大きな要因として、世界中のあらゆる個人の情報入手、または情報交流が簡易に、そして安価で行えるようになりました。当然、世界中の人々は互いに互いのことを、例えば生活水準やより長けた能力などを、良く知るようになります。この結果として、ビジネス(やその他の目的の行為)はより能力が高くかつより安価な土地へ流れますし、所得が低い者は所得を上げる術を知り、そこへたどり着くためにやるべき事をやるようになります。
こうした情報の流れやビジネスの流れ、それらをつかみ取る機会の平滑化を指して、”フラット化”と。

相互の距離が近くなり、地理や文化に関係なく、出来るヒトに出来る仕事が流れるなら、当然個人所得はその所属する国がどこかということではなく、その個人の持つ技量によって左右されます。裏返しますと、アメリカをはじめとする先進国のミドルクラスは仕事を海外の、同等以上の技量の持ち主に奪われてゆく危機を迎えているのですね。
だから(現在経済的に優位な国のミドルクラスの人たち、主に米国のミドルクラスの人たちは、)このフラット化の現象を良く理解して、世界のフラット化に自分を適応させなくちゃいけませんね、という警鐘となります。

企業のグローバルな活動を中心として、世界中にミドルクラスの層が出来上がるし、現にインドや中国などでそうなりつつある、と著者の取材による事例は枚挙に暇がありません。
ただ、インド・中国・ブラジルの経済に関する話題や企業のグローバル展開の件は『著者が指し示したいこと』の具体例でしかありませんし、インターネットの普及などはフラット化の要因の一つでしかありません。
ですので、世界がフラット化する理由、世界がフラット化しているという証拠についての記述はとても多いのですが、注意したいのは現象の根拠と要因について特定することを目的とした本ではない、ということです。
反面、下巻第6部『結論』ですら『イマジネーション』という変化する世界への適応に関する大まかなヒントの記載があるにすぎませんので、米国ミドルクラスの適応の仕方を解き明かす、というのもまた同じくその趣旨ではないように思えます。

こんなフラットな世界を迎えるにあたって、国は、企業は、私たち個人はどう生きるべきか?ということの『投げかけ』が趣旨といえそうです。
事実を事実としてなるべく多く解りやすく伝えることで、現在の状況と推測される未来を大勢が共有することが本書の趣旨かと思われます。
そういった格好ですので、答えは各自考えてみましょう。
ちなみに、個人的にはですが、以前に紹介したハイコンセプトの『右脳』クリエイティブ・クラスの世紀の『クリエイティブ社会』を思い起こしました。

著書として、関心するところは、
ご覧の通り、”release 3.0″ と銘打たれています。
『〜 2.0』とかいう表現が流行りそして廃れて久しいので『ちょっと無いよなー』と思っていたら、本当に普通に「増補改訂版」ということなんですね。
そして内容の見直し、情報の追加を意欲的に行っている様子で、姿勢として大変すばらしい。イヤ、相補前のもの読んでいないので憶測の範囲ですが。
チャラい意味での『〜 2.0』かと猜疑心の色眼鏡で見てました。スミマセンでした。
もう1点優れているのが、とにかく読みやすい点です。この手の本は大概文が固くて読み進めるのに四苦八苦するのですが、本書はとにかく楽しんで読めます。著者の努力、訳者の努力に感謝。

読んで欲しい人は『万人』
となってしまいますが、下巻の458-459近辺に記載の9.11と11.9をテーマにした「正しいイマジネーション」の件に特に胸を打たれてしまったのと、それとは別に本書の鳴らす警鐘が本当に喫緊の課題と思われますので、現在 kids 達を抱えている親御さんに薦めたいなぁ、と。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)

フラット化する世界 [増補改訂版] (下)