ブログスフィア −アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち−(2006年7月)
ロバート・スコーブル、シェル・イスラエル(著)
酒井泰介(訳)
日本では約1年前の初版発行になりますかね。
いつもながらの遅ればせとなってしまいました。
本書の概要を手短かにまとめますと、そのタイトルの通り多数の企業の取り組みについて、その成功と失敗の事例を挙げ、企業とブログ社会との関係を著者の視点で定義付けし、かつ主に企業側へ旧態依然の姿勢を改め、新たな社会へ適応することを勧める試み、と言えそうです。
が、日本語翻訳版のタイトルは上記の通り、『ブログスフィア アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち』。
個人的には、日本語タイトルから受ける印象と本書の実際の内容に少し食い違いがあって、簡単に言うと誤解していました。
本書の概要とその試みについては、原著のタイトルの方がよりクリアに内容を表現できているように思われます。
原著のタイトルは、Naked Conversations: How Blogs Are Changing the Way Businesses Talk With Customers
(by Robert Scoble and Shel Israel)
本書の内容と原著のタイトルの双方から推察すると、本書の云わんとするところが見えてくる気がします。
相当意訳でみともないったらないのですが、個人的にはこういう風に受けとめています。
答 :個人としてのホンネでの話し合い(!)
問 :消費者とビジネス(パーソン 〜 企業)との間で交わされる対話
(コミュニケーション)に関して、今までのやり方と比べ、
『ブログ』の登場以降、そのあり方はどのように変化するでしょーか?
スコーブル、イスラエル両氏とも、企業に所属する身でありかつブロガーとしての顔も持っています。
そういう状況にあるヒト(つまりサラリーマンでブログを運営しているヒト)の視点が良く反映されています。
また、彼らが先進的なブロガー(あるいはブログスフィアの性質について理解度が高いヒト)であるという側面も反映されているのだと、憶測ではありますが、思います。
サラリーマンでブロガーなこの状況は僕自身も含めて、とても大勢いると推測できます。
「ブログを書いていることを会社や上司に知らせるべきか。」
「ブログに仕事のことをどこまでかくことが許されるのか。」
「ブログの内容が原因で解雇されることはあるのか・・・」
だれしも個人の側面と社会構成員(会社員とか)の複数の側面とをもって暮らしています。
マスコミによる情報流通が一対多のコミュニケーションのほとんど全てだった時代には、個人が意見表明をしかつ大きな影響力を持つこと自体が困難だったので、社会側が憂慮する必要がほとんど無いと目されていた”事柄”が(実は)ありました。
しかし個人の私意で意見の表明が可能な情報ツール(ブログ)が現実になってしまったことによって、この”事柄”の認識と、この”事柄”への対応は重要な問題となりました。
“事柄”というのは「個人による発言」の内容と、その影響力、影響範囲、拡散経路などといったようなことです。
この”事柄”は拡大する一方ですし、形を変えるにせよ消える事はないと考えられます。
しかし未だ、この”事柄”に対するルールや規範となるような決まり事は存在しておらず、社会の側にとっても、個人の側にとってもこれからの課題です。
“事柄”というのは情報インフラの変化ですし、社会に新しい成員(ブログスフィア)が誕生したこと、新しい成員は旧来の成員に対しても変化を促し、全体としての社会もまた変化を迎えそうだ、ともいえます。
利益集団である企業においては、この”事柄”をよく理解し、新しい成員と反目しあうよりうまく付き合い、相互に良く活かしあうことで利を得る事を考えるのが得策でしょう、というのが著者の勧めの一部にあると読み取ります。
また、従来の距離や時間の制限に縛られることがなく、また広告やマスコミ、あるいはその他の権威なんかによる情報操作といった『一筋縄』が通用しない社会。
この社会構造の理解においても、企業は従来の広報/マーケティングについて再考すべきだろうね、というコトも勧めの一旦に添えられているとも感じ取る事ができます。
社会人で、個人ブログや会社のブログ運営をされている方は読んで損はないと思います。
が、なによりも(ブログに興味があろうがなかろうが、嫌いだろうが)経営者/経営管理の立場の方は一読することを強くお薦めしたいです。
会社がこれまで想定していた社会は、確実に変化しています。
消費者、マーケット、従業員など新たな社会の成員たちとの対峙について、早めの捉え直しが吉かもしれませんヨ。
まぁ、著者はこの対峙への解答を『答 :個人としてのホンネでの話し合い(!)』と(簡潔この上なく、いきなりタイトルで!)指南しているので、すこしはマシかもしれませんね。
裏を読むと「ウソやごまかしは通用しないよ」というドスの効いた文句、ともとれるわけですが。
オマケ
著者の一人である、イスラエルのブログGlobal Neighbourhoods|Links From The Bookが、書中に登場するblog、webサイトのリンクリストをチャプター毎の形式で提供しているので、興味のある方はドウゾ。
関連・参考
ロバート・スコーブル『scobleizer』
シェル・イスラエル『Global Neighbourhoods』
Global Neighbourhoods|Links From The Book
channel 9
ブログスフィア アメリカ企業を変えた100人のブロガーたち
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