戦争の経済学 (The Economics of War) ポール・ポースト(著)、山形浩生(訳)

これも知人に勧められて手にした本です。

帯に「戦争はペイするものなのか?」というキャッチがあります。
本当の意味でキャッチです。
キャッチの投げかける問いの答えは本書の中にはありません。
同時に、「ペイします・しません」的な安易な内容でなくて本当に良かったと思います。

book ポール・ポースト 戦争の経済学

強いて近しいことを云うなら「様々側面をもつ戦争や軍事活動を、ひとまずペイするものかどうかということに焦点を絞って分析しましたよ」ってことで間違いないかとおもいます。


経済学っていうものが良く分からないものの、学問の姿勢とかから推察するに適当なアプローチと思われます。
どうやら本書はアメリカ陸軍士官学校なんかで教科書になっているということが書中に記されていますしね。
(身近なテーマ(軍事)で経済的な思考を学ぶのか、経済を通じて軍事を学ぶのか、どちらの目的かはよくわかりませんが。)

国家経営と、その一事業としての戦争について、”経済の視点(のみ)” からその収益性やリスクを評価して、事業の妥当さについてみんなで考えるきっかけとなるために書かれているとみて良いかと思われます。

近頃「〜の経済学」みたいなタイトルの書籍を多く目にしますし、また個人的にも興味を持って読んでいるわけですが、「そもそも経済学ってどういうことなんだ?」って思ってたわけです。
いくつか読んだ「〜の経済学」系の本から、勝手に逆算してみると、
「現実に起こっている事象を “経済” の視点から旨く説明がつくんでない?」
というのと、
「もしも過去の事象に関して説明がつくんなら、これから起こる事もその経済の法則に則って予測すれば(野放しよりは)正解を導くことがしやすいんじゃない?」
というものな気がしてまいりました。
ヤバい経済学 [増補改訂版]』しかり。『その数学が戦略を決める』しかり。
そもそもあまねく総ての事象を経済で説明できる訳ではないというのは、勿論のこととして。

内容についてはトピック的に、次のような点が興味深かったです。

第8章にある「核兵器材料製造の基礎」
”何故だか”非常に 分かりやすく、また興味深かったです。
核融合、核分裂、プルトニウム、高濃縮ウラン、元素、原子、原子核、などなど。
核兵器の基本的なメカニズムについて、体系が掴めるようになることで、普段核兵器関連の報道などで聞かれる用語の重要さに気がつきます。
基礎、なんですけどね。この歳まで核兵器のことを知らずに生きてきてしまっておりました。恥ずかしい。

216ページに『フラット化する世界 [増補改訂版] (上)』のトーマス・フリードマンが提唱する『金のアーチ理論』が登場していました。
『金のアーチ理論』について簡単に説明を添えますと、次のような塩梅です。
マクドナルドが回転した国家同士はもう戦争をしない。国際的な経済の良好な関係が戦争によって悪化するから。そして両国家の誰もそんな事は望まないから。

あと、「思いやり予算」のくだりも体系的に説明していただきましたよ。
なるほどね、そう考えなくちゃいけなかったのね、となります。

著者 ポール・ポーストはさておき、訳者の山形浩生さん。
数がスゴいことになっています。amazon調べたら93件hitしました。(著書も含みます。念のため。)
特に、訳書の幅が面白いですねー。
その数学が戦略を決める

論理で人をだます法

戦争の経済学

環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態