“ナイロビの蜂 (2006)” を観た。
原題は、”The Constant Gardener (2005)” 。
監督は、”CITY OF GOD”のフェルナンド・メイレレス。

“CITY OF GOD” の メイレレスのらしさ全開の “社会悪の告発” (から目をそむけることを許さないシビアな)作品 として観ました。
テーマが、広く、重く、深く、とても大好きな作品になりました。
もちろん、映像も音楽も好みです。

追記:The Constant Gardener [Soundtrack] 13. Kothbiro
Ayub Ogada - The Constant Gardener - Kothbiro

なにより受け手によって様々な反応を引き出す不思議さ、があるように思います。
が、それが故に物議を醸しそうなある1点について。
本作の主題と DVDジャケットをはじめとするプロモーションの関係について、です。

作品を観たあと、「あのジャケは何事か!?」「壮大なラブストーリーなのかっ?」となったヒトも多いんじゃないかと思います。僕もその一人です。

この乖離はなんなんでしょうか?
乖離の理由について思惑を巡らし続けていますが、なんとか僕なりに理解をする為に、推察の材料をいくつか集めてみました。
そして、僕なりの答えはこうです。


まずは、原作について。
原作者はジョン・ル・カレ。カレについて、wikipediaから引用します。

ジョン・ル・カレ(John le Carré,1931年10月19日 -;本名:デイヴィッド・ジョン・ムア・ コーンウェル(David J. M. Cornwell )は、イギリス・イングランドのドーセット出身の小説家。スパイ小説で知られており、映画化された作品も多い。

カレの過去の作品は、次の通り。

死者にかかってきた電話 (1961) ハヤカワ文庫
寒い国から帰ってきたスパイ (1963) ハヤカワ文庫
鏡の国の戦争 (1965) ハヤカワ文庫
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (1974) ハヤカワ文庫
スクールボーイ閣下 (1977) ハヤカワ文庫
リトル・ドラマー・ガール (1983) ハヤカワ文庫
ロシア・ハウス (1989) ハヤカワ文庫
パナマの仕立屋 (1996) ハヤカワ文庫
ナイロビの蜂 (2001) 集英社文庫

もちろん読んでいないので、何とも言いがたいのですが、サスペンスか、バイオレンスか、ともかく戦争やスパイについて描くのが作風の様に捉えました。

次に、監督について。
監督は、フェルナンド・メイレレス。
あの「シティ・オブ・ゴッド Cidade de Deus (2002)」の監督ですよね、という説明でひとまず観た人には通じるかと思います。
また、メイレレスのその他の作品はまだ見ていないので、一概でないかもしれませんが。
“CITY OF GOD” でのあの “どうしようもないリアリティ” が魅力ですよね。
また、内容がどの程度 “リアル” かについては別途、物議を生むであろう作品作りをした点も今回の要です。

で、劇場公開のプロモーションについて。
日本と米国でのwebサイトのキャプチャになるのですが、”狙い” にずいぶん違いがありますよね。

(米)のwebサイト。

URI: http://www.theconstantgardener.com/

(日)のwebサイト。

URI: http://www.nairobi.jp/

何が違うって、一つ目にはロゴの書体が全く違いますよね。

で、次にそれぞれのキャッチです。
米:「a first rate spy game」「one of the year’s vest movies!」
日:「世界中が絶賛し涙した、壮大なラブストーリー」

あと、ビジュアルが違うのですが、これは日米変わりない点みたいです。
念のため、amazon.comの方の書籍ジャケット案内しておきます。
The Constant Gardener: A Novel (Paperback)

で、ボチボチマーケティングと主題の関係に入るわけですが。
次のどっちかなのかなぁ、と憶測します。

レイチェル・ワイズが助演女優賞とってることから、男性より女性、ハードボイルドタッチよりラブストーリー仕立ての方があたりが良いと踏んだのか、それとも、『ゴースト ニューヨークの幻』よろしく夫婦の愛が主題に観えたのか。(確かに、妻の死をきっかけとして夫が『追体験』を経ながら進行するわけですが)はたまた、その他の理由なのか。答えは判りません。

複数の客観的な視点が無いか、物色したところ amazon が一番手っ取り早そうでしたので、次に引用します。次の構成は、(おそらく)DVDの解説文と映画評論家の方の解説文の2本立てです。
(原文や、その他購入者のレビューは、amazonで直接どうぞ。)
amazon の作品 解説を読んでみますと、次の様に記載されています。

内容紹介
妻の突然の死…。その裏には多国籍企業による、巨大な陰謀が隠されていた! レイチェル・ワイズがアカデミー最優秀助演女優賞を受賞した他、世界各国で絶賛されたサスペンス・アクションの傑作!
情熱的な妻テッサと外交官の夫ジャスティンは、夫の駐在先のナイロビで暮らしていた。しかしある日突然、ジャスティンの元にテッサの死の知らせが届く。警察 は単なる殺人事件と処理するが、疑念に駆られたジャスティンは妻の死の真相を調べ始める。そしてアフリカで横行する薬物の人体実験、官僚と大手製薬会社の 癒着を知る。テッサの思いを引継ぐジャスティン。やがて彼がたどり着いたのは多国籍企業による世界的陰謀だった! 妻への愛と自らの信念を守るため、ジャスティンの命を賭けた孤独な戦いが始まった!

そして、同ページ内、直後の映画評論家の増當竜也(ますとたつや)さんによる紹介文は、次の通り。

外交官のジャスティン(レイフ・ファインズ)は、妻テッサ(レイチェル・ワイズ/本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞)と駐在先のナイロビで暮らしていたが、ある日突然テッサが殺人事件で死亡したとの知らせが届く。疑念に駆られて真相を究明しようとするジャスティンは、やがて世界的な陰謀と対峙(たいじ)することになってしまう…。
『シティ・オブ・ゴッド』で注目されたフェルナンド・メイレレス監督が、現実にアフリカで起きた事件を題材にしたジョン・ル・カレの同名小説を原作 に、壮大なスケールで描く力作サスペンス映画。劇場公開時はまるでラブ・ストーリーのような宣伝がなされていたが、実際はアフリカを食い物にする者たちの 傲慢さや、それゆえの重々しい衝撃的悲劇を前面に打ち出した社会派映画で、その中から夫の妻に対する愛情をじわじわと醸し出していくといった構造である。 結末がアメリカ映画らしからぬところも妙味。ただし、妻のキャラクターには賛否あることだろう。

それぞれの本作のジャンルについての言及だけを抽出しますと、前者は

サスペンス・アクションの傑作!

また後者では

壮大なスケールで描く力作サスペンス映画

ということになりそうです。

僕なりの答えは、また別の所にあります。

冒頭に書いた通り、「受け手によって、様々な反応を引き出す不思議さもあるように思います。」
この点において、マーケティングも、amazon内での解説も、映画評論家の解説も全て正解なんだと思います。

マーケッターのヒトが巧妙かつ作為的に利用したか? とかいうことまでは上に書いた通り判断がつきませんが、作品の主題とプロモーションのズレについて、こんな風に分析と考察をしてみました。

1. 入れ子の構造と葛藤。

どこを切り出して主題とするか、が受け手それぞれになる理由がキチンとある構造になっているのではないでしょうか。
砕いて言いますと、ものすごく多くの(主題になりえる)題材が無理なく詰め込まれている「入れ子構造」+「葛藤」だからかな。
そうみると意外とシンプルに思えてくる。というか幾何学的にさえ見えてきます。
個人的には、(全部でないにせよ)次のような主題の入れ子構造と葛藤が描かれているのかな、と感じました
そしてこれ自体も見る人それぞれで違ってくるのでしょうね。

 制度の遵守と心の問題
 孤独な戦いと群れることの害悪
 自己犠牲と自己愛
 感覚的な正義と経済的な正義
 グローバルの善とドメスティックの善
 共に生きることと互いを疑うこと
 生きる意味と死ぬ意味

この作品の構造自体が、この作品がものすごーく優れた点でもあり、マーケティング的に利用しやすい点でもあった一番のポイントなんではないか、と考察しました。

本作品の構造と葛藤について、みなさんにはどんな風に捉えたでしょうか?

2. 監督の持ち味
真実なのか事実の告発かフィクションか、、いまひとつはっきりしない点が、いかにも監督メイレレス的で魅力的ですよね。
それは前作の “CITY OF GOD” との類似点でもありますし、メイレレスの作風なんだと思われます。
また、飢餓とか搾取とかの社会的・政治的要因によってもたらされる、人間のどうしようもない「みにくさ」みたいなものの描写についても、”CITY OF GOD” 同様の切り口と想います。

そろそろまとめますが。

ということは、あくまでも “社会派監督” の “社会派作品” の “あのどうしようもないリアリティ” による “社会悪の告発” が主題なんだ、という軸足で本作品を捉えておいて、そうそう大ハズレはないんではないでしょうか?
メロドラマとして受け取るよりはお勧めしたい。

書籍
ナイロビの蜂〈上〉 (集英社文庫)

ナイロビの蜂〈下〉 (集英社文庫)

The Constant Gardener

DVD
ナイロビの蜂(DVD)

関連リンク
ナイロビの蜂 公式サイト(日)
ナイロビの蜂 公式サイト(米)