BOMBON(邦題: ボンボン, 2004年/アルゼンチン, 監督: カルロス・ソリン)を観た。

不器用で気のいいオジサンが、幾人かの人や 1 頭の犬ボンボンと巡り会って、みんなをホンワリ幸せにしてゆくロードムービー。
メッセージ、ストーリー、ユーモア。どれも気さくな感じでとても質のいい作品。

DVD パッケージのぱっとみからだと、ダメなオヤジが犬に救われる「幸運のロードムービー?」とタカをくくっていたのだけど、いざ観てみると、もう全然そんなんじゃない
(以下、ネタバレ。)

オジサンは不器用。好きでやっているナイフの柄の彫刻を見れば一発。頼まれた仕事の内容も勝手に変更する。火種になること必至の bombon を居候している娘の家に連れて帰ってしまう。
が、オジサンにはスペシャルな能力が一点がある。心がオープン。それはもう、通りがかりのヒトの職業斡旋も受ければ、他人の車を150Km(だっけ?)引いてもやることもいとわず、bombon の世話だってひきうけるし、素人のくせにショーにも出ることも請け合う。身に起こる出来事が悪い方へ繋がらないという信念でもあるか、それともただ単に赤ん坊の様にか、とにかくなにも「疑わない」。

途中の行程は省略するとして、オジサンの疑わない能力と、bombonにまつわる出来事とで構成された作品のしめくくりは、キチンと bombon の回復とオジサンの回復で終わる。
環境からの圧力に対してマイペースを崩さないということだけではなく、もともと要請されていた務め、おじさんは収入源、ボンボンは繁殖能力、を無事に獲得する。めでたし。

映画を因子分析的に解釈するのは良い事ではないと普段は考えているんだけど、今回はそういったレビューをあまり見かけなかったので、じゃ、オレ、やるワ。

一つ目は、人格否定を受けてしまう人々。
期待される務めが果たせないことから人格(犬格)を否定されてしまう登場人物は、気付いた範囲で次の 3 名。

  1. 経済の事情で肩身が狭いオジサン
  2. 家庭の事情で声を失う少女
  3. 繁殖ができないという事情で価値を損なう bombon

彼らは本作品のキーだったんでなはいかと思う。
オジサンと bombon は回復したけど、少女はどうなったんだろうな。

二つ目は、オジサンは終止ステイタスをかえていないこと。

  1. オジサンはヒトを疑わない。
  2. オジサンはほとんど表情を変えない。
  3. オジサンは流されているようでもマイペース。
  4. オジサンは困ってはいるけど無欲。
  5. オジサンは不器用。

「金が欲しい」というのは一つも出てこない。象徴するように、金の仕舞いかたがぞんざい。受賞後のパーティーもさほど楽しまない。「(賞を)いっぱいもらったの?」の問いに「いまはこいつ一頭だけだけど、いっぱい(育てる)」とあさってな違いの答えをする。いわゆる「サクセスストーリー」はこのオジサンを主役に据えている時点で通用しない。オジサン目線で言えば格段のステップアップもダウンもしていないから。むしろ、成功と実利を手にしてゆくのはオジサンの周囲のヒトにも見える。

三つ目。ドゴ・アルヘンティーノという犬種の性格。
ドゴ・アルヘンティーノ、実際に身体的には強靭で精神的には情に厚いということ、らしい。
ドゴ・アルヘンティーノに詳しい情報は、Katana Caza Mayor

で、まとめてみると。
現実の社会に眼を向けると、社会的には年金問題、格差問題など、企業的な単位では粉飾決算とか表示偽装とか、人材バンク、事故米など、個人の単位だとオレオレだとか通り魔だとか。権威と?、ストレスと逸脱、放棄と執着を巡って、ワケわなんないくらいアンバランスになってきた。実際にそういう事件報道は、表面張力からこぼれ落ちたひとしずく。そしてそんな中ででもしがない一個人は身を守って生きてかなくてはいけない。そうすると結局は「ヒトを信用」しないというのが最も効率の良い選択になる。これはこれで妥当。
が、他人を評価し疑ってかかることは意外と、ー 他人と信じあって共同で生活を営むことの方が独りで生きていくよりも安心で効率がいいからだからという ー「社会」成立の前提を揺るがしたりもするのかなぁ、ナドと考えさせる。
また、違った言い方を選ぶとするなら「ヒトを陥れる,ヒトを疑う,孤独,ヒトを信じる,ヒトに施す」ということそれぞれが意外にも同じ軸上に位置している感じ。本作品は、この「信頼の軸」に対して「富」という値はこれと反比例を描くという穿った考え方を否定してくれるし、「幸福」という値は正比例をとりうることを支持してくれる。
なので、深読みせずシンプルに言うと、古典的、宗教的な博愛精神の類いについてのメッセージだったりするかもしれない。が、今っぽいテーマとして響くのは、相当アンバランスな時代だからかもしれない。

リアルの社会を反面教師としてこれだけ掘り下げた優れた作品だったにもかかわらず、品よく質が高い作品に仕上がった点は、こないだ観た「崖の上のポニョ」を喚起させるなと感じた。
忙しさと難しさと大人の事情で心を閉ざして、みないフリ気づかないフリを続けてきて、いっそヒトデナシになってしまいそうなアナタ、一服どーぞ

関連リンク
アミューズソフトエンタテインメント|DVD|ボンボン
Katana Caza Mayor
IMDb

DVD BOMBON