吉越浩一郎(著)の「『残業ゼロ』の人生力」/「『残業ゼロ』の仕事力」を読み終えました。
「『残業ゼロ』の人生力」/「『残業ゼロ』の仕事力」
全体の方向性として、人生=仕事ではないのだから、人生全体を有意義に生きるためにワークライフバランスについて考え、職場環境の改善を実行してゆきましょうよ、ということになります。

「仕事力」の方が、残業ゼロを目指す取り組みとして、デッドライン設定、問題解決、会議スタイル、リーダーシップなど職場や業務に関する話題が中心となります。
これに対して「人生力」の方では、現場における仕事観についての示唆はほとんど含まず、学習期/仕事期/本生期との 3 期で構成される独自の人生観の下、よき本生とは、またそれを迎えるための用意とは何かについて自らの想いが綴られています。

「仕事力」「人生力」とも大変読みやすい平易な言葉でまとめられています。速い人なら 1 冊 1 時間もあれば読み終えることができそうです。


著者のその経歴と経営者としての実績、あと現在の年齢から相応の説得力があり、その主張(日中の業務効率を向上すること、残業廃止を目指すこと、余生/本生を真剣に考える)と感性(活気がある職場は集中して仕事を出来ていないだけ、とか)に関して、個人的にはものすごく賛同します。
誰かさん曰く、この国はヒトを資源に経済的な成長と維持を果たしてきた、わけです。が、その成長の背景には滅私奉公、日和見、ツキアイが横たわっていてそれでもって成り立ってきた、とも言えそうです。そうなると「日本人は勤勉な?云々」というおなじみのフレーズも決して褒め言葉ではないにも関わらず、ユーモアを解さず皮肉を褒め言葉と受け取ってしまっていた感も否めないわけですね。

そんな具合に目が覚めるような事もしばしば。また常識や空気にとらわれずに、問題の根源を探り出し、解決策を論理的に創造し、そしてなにより反対を押し切って実施し、成功するまであきらめない姿勢には感服。しかしながら共感できかねる点もかなり散見されました。

1 点目、仕事観について。
著者は両方の著書において「仕事はゲーム」「仕事は金を稼ぐこと」と断言してしまっているわけです。が、それは「企業経営」の視点ではそうということの間違いでなないか? と。かならずしもその視点だけで人(個人)は働いていない。
教育者、職人、消防士、音楽家、プロスポーツ選手、社会/国際貢献事業、老人介護などなど、職業と人生の目的や喜びが重複している方はかなり大勢いると思われます。人が何に依って生きるか、それは各人が勝手に決定することです。
また、この点について触れるにはもう一つ理由がみあたります。「仕事はゲーム、金稼ぎ。あたりまえでしょ!?」というフレーズからは現在の証券業界みたいな結果が想起されるせいもあるかもしれません。一様であるかのように言い切ってしまう姿勢には、ちょっと引っかかりを覚えます。
フォローとしては、メッセージの単純化の為に読者=「雇われ」を想定されているかもしれませんね。

もう 1 点、リタイヤ観について。
欧米において「おめでとう! これからはクルーザーでワインの毎日かい。うらやましいねえ」という退職を迎えることと、日本において「お若いのに…」と言われ後ろ髪を引かれる想いで職場を去るそういう退職とに触れ、著者は前者の理解がよろしいとしているわけです。
これについての個人的な感想は「そりゃ、みんなそうだろよ」。
確か故緒形拳さんが出演していたみずほのCMで「かっこうつけたようなことなんかどうでもよかった(暮らしてゆけるかの方が心配だ)」というのがありましたが、庶民派なリタイヤに関する不安材料(現場への後ろ髪)はあんな感じではないでしょうか?

まとめちゃいますと、ライフワークバランスを考えよりよい人生を楽しもうという方針はとても正しいと思うので全体については賛成です。それに向けて企業も政府も色々と手をうつことができるのであれば、過労死問題、少子化問題、教育、個人消費などなど副次的に良い効果も期待できそうです。いよいよ素晴らしい。同時に上に書きましたが、著者の経験、考え方、感性、行動力、そしてなにより達成力、どれをとっても非の打ち所がない。人生観も家族観も共感。

それなのに、全体を通じて妙なズレ感を感じ取ってしまいます。

一つには、社員の業務効率化に触れているがその対局にある商材そのものが持つ価値(あるいは経営者の眼力)について全く触れていないこと。もう一つには、一人頭の労働時間を短くするということの対局にある雇用の頭数を増やすことについては触れられていないこと。何か腑に落ちない想いがします。

主に「『残業ゼロ』の人生力」について、強いて「誰に向けて書かれた本か?」と問われるなら、退職金いっぱいもらえる組織に在籍しててリタイヤはハッピーにいけそうだけど嫁には嫌われていることがただ一つの心配事となっているオジサン方とか、そういうことになりそうですよ。
いやいや。現状の金融証券問題と緒形拳さんのニュアンスからすると、そんな恵まれた人もそうはいないかもしれませんが。

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