時事通信社のというより湯川鶴章のIT潮流 でおなじみの湯川さんによる、広告の「近」未来に関するルポルタージュ、ということになりますかね。
次世代マーケティングプラットフォーム 湯川 鶴章
いわゆる既存の概念の内側から物事を眺め、「インターネット v.s 4 大マス」という構図で捉えていては広告の未来は見えてこないということだそうですよ。

ボクが勝手に捉えた本書の趣旨は、もはや広告のあり方そのものが変わります、その方向性はアッチです、ということになります。アッチというのがドッチなのかは、是非本書を読んでいただきたいワケですが。

あんまり手放しでもアレなので、ちょっとだけ本書の内容に触れます。
従来の広告関連業界の構造が、日進月歩のテクノロジーと相互補完型のクラウドコンピューティングによって代替される日が既に始まっているということ。これと同時に、広告の出稿先たるメディアはより多様化しますよ、ということ。さらに消費者はテレビの前以外にも広告を感受し得る手持ち無沙汰な時間が結構ありますよ、と。そういった事について著者は、デジタルサイネージ、CRM、モバイルウェブ等比較的若いテクノロジーを事例として挙げ、「広く告げる(広告)」際の手法(と広告業界と関連業務、広告消費様式)の変化の可能性を示唆しています。

以下は本書を通じて得た幾つかの個人的所感です。

広告主と媒体間のアレンジ?マッチングはテクノロジが行う。
最適な露出先はシステムが提案する数値によるものに取って代わられ、広告エージェント活躍する領域は減少するということになりそうですね。
先行事例として既に AdWords への出稿は社内の担当者 1 名だけでいけます。これがグーグルや検索連動リスティングという萌芽から次のステージに進むことでデジタルサイネージや電子ペーパー等の新しい媒体に同システムを適用しうるし、エージェントが介在せずとも広告主の知るところにもなりそうです。広告主が自ら広告効果の PDCA をまわし始める、ということも可能そうです。

広告出稿に関する手続きが簡易簡素化している。
上にも述べた通りテクノロジー進化、インフラ普及、システム構築/開示?クラウド化によって「専門家」でなくても広告を出すことは容易ですね。出稿した広告の効果がどうかというのも、システムが吐き出すレポートを読み取るリテラシーを備えさえすればさほど難しくないですしね。特別な場合を除いて、ここでも広告主側担当者以外の「専門家」は不要になりそうに思えます。

広告のクリエイティブはより一層、専門化高度化していってほしい。
もともと多くの場合、広告にかかる費用の大方はメディアの費用だったわけです。クリエイティブそのものに費用を割くことが出来るのは資金潤沢な大企業がほとんどだったことと思われます。なので広告出稿の手続きが簡素化されるその分だけ、クリエイティブには加速してほしいですね。コピーライターやデザイナー、映像作家や写真家などによる Special なコンテンツに触れる機会が増えると嬉しいです。消費者としても業務報告みたいなメッセージや、赤と黄色の目がチカチカする絵柄ばかりでは寂しいですからね。

デジタルサイネージの分野は楽しそう。
これは技術的な裏付けが充実してきて、今まさに実用という段階に入って来ているところですよね。ファーストフード店のメニューなどの事例が書中挙げられていますし、活用の幅はもの凄く広そうです。誰もがサイネージのオーナーとして収益を得る可能性を秘めていますし、シナジーを測る事が出来る広告マッチングも無数にありそうです。それにレジ前など待ち時間がダルい場面では顧客も暇つぶしが出来ますしね。更に、想像し得るデジタルサイネージ関連プロダクトはガジェット的にエキサイティングっぽいです。

そんなような夢想にうつつをぬかしつつ、まとめ。
IT の普及が電子マネーや個人投資家市場を造りそして支える経緯と同じ様に、広告業界における高度な IT 化 の波は広告関連業界と広告主とに関わらず影響を与えるし、これによって専門家領域の縮小と同時に広く一般(人)の参加機会を支援する、そんなような構造の変化が「近」未来では実現しそうですね。

が、実はこの本、書店店頭で見かけることはほとんどありませんでした。(何故だか TSUTAYA で発見)
ので、もうすこし部数を刷ってて欲しかったかな…と。

関連リンク
湯川鶴章のIT潮流

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