生活者・消費者視点の、インパクトあるタイトルは著者河野さん自身のスタンスを明確にしてて、それと同時に彼の人柄みたいなとこも明らかにしているように感じました。きっと狙ってるはず。とかいうのはさておき。

読後の第一印象は、「リスキーだなぁ」ということ。
ボクは本もブログも書く人が自由に書けば良いと思っているようなタイプなので、この本のスタンスも(むしろ「この本のスタンスは」か)すんなり受け入れることが出来るんですね。むしろ好きだと。
けど、まぁ、世の読者の中には(誤解でも、作為でも、いっそのことなんでも構わんから)なにかしら言いたいタイプというのも居ると思っているので、その辺り、言いたい人にいかようにも足下をすくわせてしまう編集・構成だな、ってところが上で言うリスキーって部分。
お金も利権もそれなりに関わるテーマでの直球勝負ってだけで、ボクは読んで良かった。

ボクがこの本を見つけた書店の棚も書籍タイトルからも、「マーケティング」について、とくに「インターネットのクチコミ」について書かれた書籍ということになります。

本書の一番の主張はというと「市場としてのインターネットの実寸」を見定めて、目的に適う使い方をしたいですね、ということになろうかと思われます。その対極にあるフレーズが「インターネットは魔法の杖」ということ。
また、注意をしておきたいのは実寸の測り方。試みていないボクが言うのもアレですが、これは難しいんですよね、おそらく。仮説検証しようにも、統計データが揃わないことも多いだろうし、インタビューとか体験とかの情報がウソということもまたないし、類推や憶測という手法が表現としてイケナイわけでもない。少なくともボクは一つの材料、または自分はどうだろうか?と顧みるきっかけとして受け入れることができる。
(だけどみんなこの辺つっつくの大好きなんだよなぁ…嗚呼。)

上で言う実寸を推し量る上で、理解しておかなくてはいけない登場人物が、企業担当者、広告代理店、そして私たちコンシューマ・生活者。
このコンシューマ・生活者には内訳があって、次の通り。まずコンシューマにはオンラインでものを買う人とオンラインでものを買わない人がいます。コンシューマ・生活者にはオンラインに記事を書く人と書かない人とがいます。オンラインに記事を書き付けるひとには、ブロガーとアルファブロガーというのがいます。後者アルファブロガーの方が書く記事は、その他のブロガーの書く記事と比較して、より消費者による購買に影響力があると、されています。また、ブロガー、とくにアルファブロガーがネットの「クチコミ」の起点になると目されてもいます。

その辺を一般的な理解、と仮に呼んでおくとして、その一般的な理解は結構正しくなさそうな部分が含まれているようだ、となります。いわれてみれば確かにボク自身もよく考えてなかった。ブロガーとアルファブロガーの影響力の違いは誰が計測したかとか、ネットでクチコミができるというのは本当なのかとか。そもそもクチコミって現象はいったい何なのかとか(「クチコミ」と「ネットで/ブログで概ね好評」ってのはさ違うよね、なんとなく等)。とそういったことを考えないで臆面もなく信じたりモノを語ったりしてしまうんだな、ヒトって。ボクって。

にもかかわらず、広告代理店は、もう一方の登場人物である企業担当者が希求するプロモーション効果実現の手法として「クチコミ」サービスを企業担当者へ販売します。また、企業担当者は広告代理店がいうところのクチコミサービスを買ってしまいますね。あるいはブロガー向けイベントを開催して、コンシューマ・生活者の一部であるブロガーに記事を書いてもらうことを「クチコミ」として希求してもいます。上に書いた通り一般的な理解が正しいかどうか吟味することなく、です。
ところが対岸にいる第三の登場人物 僕たちことコンシューマ・生活者の実相は、企業担当者の期待ほど、または広告代理店がいうほど、ネットの情報に右往左往してないんでない?っていう問題提起も不可能ではなさそうです。
それと、対価を受け取って商品の感想を書き付けるブロガーは既に広告代理店側の人という公的認識作りも消費者保護的な側面から必要そうです。だから、当該のブログ記事にはその記載内容が広告であることを明記するほうが社会的には正しそうです。
ちなみに僕自身も対価をもらって、商品の感想を書くことは一切無いです。ま、そもそもオファーがないけどねっ。もしも対価を貰って書くならやっぱり「これは広告です」って注釈する。しないのは気が咎める。この辺りをどう捉えるかってのは、書き手、ブロガーの倫理観なんだろうな。でもすでに個々の倫理観じゃ追いつかない程度には影響ある規模になってしまっているのかもしれないですよね、ブロゴスフィア。

以上、とても端折ったまとめなんですが、僕はそんな風に読みました。
それで、結果としてボクは大賛成です。大賛成というか主張が真っ当。
仮に性善説に立って捉えるとするなら、広告代理店も、ブロガーも、悪意ではなくて無知によって間違った側に加担しているだけなんじゃないかとも思えるのです(そんな程度の倫理基準でいいのかというと、そこもまた問題がありそうですけど)。無知による出来事なら「どうやら間違っていそうなこと」を、ちゃんと言葉にして伝えてくれる人は世の中にとって、とても有難いと思えます。そしてボクたちも、気がついたことに対してはすこしばかり言わなくちゃいけない。
もっとも性悪説メガネで眺めてみれば「儲かりゃいーんだよっ」とか「騙される方がワリんだよっ」とか「違法ではない(適用すべき法律が今のとこ無い)」っていうブロガーや広告代理店の人ってのも、まぁ、確実に居るんだろうから、厄介ですなぁ。

翻って、本書の初版出版後の世の中の動向を添えるとすると、コレかな。
2009/10/06 時点で、米連邦取引委員会(FTC)からのリリース。

改訂版の指針には、広告主と製品推奨者の間に消費者が想定していない(金銭の授受や無料での製品提供といった)「具体的結びつき」がある場合には、それを 明らかにすべきだとする長年の原則を明確化するための事例も、新たに加えられている。

改訂版指針では、判断はケースバイケースとなるものの、現金または現物で報酬を受け取って書かれたレビュー記事は、推奨広告とみなすことを定めている。し たがって、推奨記事を書く場合には、ブロガーは、その製品またはサービスの提供者との間にある、具体的な結びつきを開示しなければならな い。

via CNET Japan http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20401148,00.htm
多少、正しいほうへ前進、ということで良いんではないでしょうか。

それから、河野さんの原動力について。もうね、もはや、これに触れたいがために上の7段書いてますから。ボク。ボクにとってはすごい興味深いこと。

結果的に生活者やコンシューマ、それに企業の担当者がつかまされてしまうような、よからぬ結果を生みそうな要因はなるべく小さい段階で取り除いてしまって、良い部分は活かして、サービスをより進化させましょうというのが基本スタンスに思えます。
だから、ネットの状況を嘆いているんでもなく、サービスつぶしたいんでもなく、ブロガーをどうこうしたいんでもないんですよね、きっと。単に生活者・コンシューマにダマされるヒトがなるべく出ない、また企業の担当者に「こんなはずでなかったのに」とならないインターネットの利用を促したい想いが強いんだなと理解してます。そこで、このフレーズ。

ぼくはぼくとぼくの好きな人のためにがんばる(smashmedia)

http://smashmedia.jp/blog/2007/11/000488.html

僕は河野さんのことを、この本とsmashmediaを通じてしか知らないから、本当のところは何も知らないといっていいんだけど、上の座右の銘に河野さんがこの本を書く基点や原動力があったとしたら、なんだろう、ボクはすごくウレシい。
まぁ、もっとも、マーケティングについての本を出したワケだから、ボクみたいなへその曲がった読み方したら、著者にはガッカリされるかもしれませんケドね、とも思ったりしつつも。

これで大方触れたいことは触れたもので、清々しました。その他トピック的に印象深かったのがインターネットの捉え方の格差、特に地域による格差、世代による格差(があまりない)、職業による格差とかの指摘などですね。もちろんこの他にも折り目をつけておいた箇所がいくつかありました。僕の言葉でかくと間違いもたくさん出てきそうなので、著書から抜粋・引用して紹介。

043頁
意外に軽視さ れがちなのですが「どこで買っていただくか」というのはとても重要なポイントです。広告やプロモーションを考える際に、「どこで露出するか」は誰しも考え ることですが、そこで接触したお客さんを「どこへお連れするか」、最終的に「どこで買っていただくか」までを、ぜひこれからは考えてください。

086〜087頁
マーケティングは、
・世の中にないような、素敵なモノを作るための行為
・作った素敵なモノを広く世に伝えるための行為
という両方があって、初めて成功するのです。

106頁
ただ、ぼくはネット業界の人の中では積極的にそうじゃない人の暮らしに感心を持っているほうだと思っているので、そこの自負からあえて書いたのも本音です。

117頁
夜 九時にテレビCMを出せば、単純計算で全視聴者の8分の1は見るわけですが、ネットの場合は母数が大きいので単純に8分の1ではなくて、大手サイトがその 内の大半を持っていて、それ以外のサイトはそれこそ何億分の1や何千万分の1というような話になってきます。そんな中で人を繋ぎ止めると言うんですから、 そっちのほうがよっぽど難しいことです。

134〜135頁
企業とブロガー(ブロガーは時には生活者であり、時には消費者)はもっと良好な関係を構築できるはずだと思っています。
そして、その方法論こそが「PGM(Partner Generated Media)」という考え方です。

最後の PGM についてはコレです。プレゼンテーション資料も面白かった。

意識改革は言葉から。あなたの味方「PGM」。

つってね。

10.
最後に本書の目次、載せときます。

第1章 インターネット「真価」論
01 ネットクチコミでバカ売れの”ウソ”
02 クチコミマーケティングにダマされない
03 「テレビCM崩壊」ってホント?
第2章 ブログを使ったクチコミマーケティングは幻想にすぎない
01 愛情>信用、で人はクチコミの影響を受ける
02 ブロガーってなんだろう
03 極論だけどブロガーを無視しても売れるものは売れる
04 マーケティングの原点に戻ってブログを見てみよう
第3章 ネットにまつわる数字や比較論に意味があるのか
01 ブログにまつわる数字あれこれ
02 ページビュー=影響力?
03 ネットを語るときに世代論ってぜんぜん使えないからもうやめて
第4章 ネットを上手に使った今後の広報・広告のあり方
01 ネットは何が強くて、何が弱いのか
02 広報・PR効果は本当に測れないのか?
03 広告と広報の違い
04 クチコミが生まれるには、本物じゃないといけない理由
05 行動ターゲティング広告の是非論
06 対話のできるパートナーを見つけることから始める
第5章 ネットクチコミ座談会

本当のことを言ってくれるオトナは、存外少ないかもしれませんね。

そんなんじゃクチコミしないよ。 ネットだけでブームは作れない!新ネットマーケティング読本