福岡伸一さん著の「生物と無生物のあいだ」を読みました。
素人には取っつき難い分子生物学の話を、叙情的な表現でもって、判りやすく興味深く案内してくれる一冊です。
本書がどんな風に叙情的で興味深いのか。これを説明するのは非常に回りくどいので、本書から一部を引用する形で紹介します。第9章「動的平衡とは何か」の冒頭「砂上の楼閣」から一節。
砂の城がその形を保っていることには理由がある。目には見えない小さな海の精霊たちが、たゆまずそして休むことなく、削れた壁に新しい砂を積み、開いた穴を埋め、崩れた場所を直しているのである。それだけではない。海の精霊たちは、むしろ波や風の先回りをして、壊れそうな場所をあえて壊し、修復と補強を率先して行っている。それゆえに、数時間後、砂の城は同じ形を保ったままそこにある。おそらく何日かあとでもなお城はここに存在していることだろう。
しかし、重要なことがある。今、この城の内部には、数日前、同じ城を形作っていた砂粒はたった一つとして留まっていないという事実である。
「生物と無生物のあいだ」153頁
一部抜粋なのでその総てを説明しているわけではないのはもちろんのことですが、「動的平衡」とは上記引用のように表現される事柄なのだそうです。この引用部分の比喩が本当の意味で良い例えになっているのかその妥当性については、ボクに科学的な知識が無いので何とも判じ難いわけですが、事柄の構造と、構造の中で起こってる現象について感覚的にピンと来る感じがします。
出版時点、著者は青山学院大学の教授をされています。科学的な研究をしたり論文を書いたりする感性と、この著書にある饒舌さという感性が、福岡さんの中で同居してるってことが、本書の内容と同等程度に興味をそそります。
おもしろかった。講談社現代新書の出版です。