結構前からいずれか問題に感じつつもその問題を厳に解決しなかったとしてことさら直ちに厄介な目に遭うわけでない場合に、大概ナアナアというテクニックを使う。
1.5年ほど乗っているうちの約1.5年ほどの期間、ハンドルが遠い気がする…といういかにも腰に悪そうな問題を解決してみよっかなと思い立ち、たまにお世話になっている近場の小径車屋へ向かった。
ハンドルを手前側に寄せるやり方といえば、当然ハンドル・ステムというパーツを今の物より短くすることが思われるべきだ。ボクも当然ステムを調達するべく店へ向かったというわけだ。
いつもの場所にあるいつもの店に到着し、店内の色とりどりの品々を物色した後ほどなく独りしかいないスタッフに声をかけて、ハンドルを手前側に寄せたいことを伝えると、メジャーを片手に実写のハンドルステムを測ってくれた。店内にディスプレーされている組み立て済みのカッコいい小径車に備えられたハンドル・ステムを例にしてどれくらい短いものにできるかについても案内もしてくれた。それから、ボクの方からオススメの品について水を向けたら、いくつの品を選んで紹介してくれた。ただしこれは、全てカタログ誌上からセレクトだ。ステムの現物は在庫はないからだ。
誌面の中から、黒色とピンクを組み合わせた製品の、最も短い 50mm のものを選んで注文を済ませた。本当はその場で取り替えることが叶えば最高の気分になれただろうけど、その気持ちは来週までおあずけとなった。それと5cm という表現を、あ、50mm のですか?と正されたのはあまりいい気分ではなかった。でもスタッフに悪気が無いことは判ったし、ともかく、来週にはハンドルがおよそ 30mm もボクの側へと寄ってくるのだから大した問題じゃない。
と、ハンドル・ステムの手配を終えた帰りがけに、1.5 年のうち0.5年ほどの間、問題を抱えていたことに気がついて、独りしかいないそのスタッフに軽い気持ちで気になる症状について投げかけてみた。後輪側のシフトが速い方に挙げてゆくと6 段目あたりで無反応を決め込むことがある。この症状についてだ。スタッフはハンドルをメジャーで測ってくれたのと同じフットワークで、看ることを申し出てくれた。もちろんシフト用のワイヤーを販売する機会であることに気がついただけなのが、ありがたい。それでこその商いだ。
表で待っている黒のベンチュラは、手際良くスタンドに乗せられて、点検を受けた。もちろん症状はスタッフの眼前でキチンと再現された。待合室で体温計を挟むと不思議と熱が下がってて診察室で物語後半のオオカミ少年みたいな気分になってしまう例のあのパターンにはならずに済んだ。間違いなく後輪のシフト機能はおかしいのだ。そしてスタッフは、シフトのインナーケーブルが切れているかあるいは裂けているかしているのだろうと予言した。それはアウターケーブルの中に隠れて見えない。
もしもインナーケーブルを交換することで不整脈みたいに 1 段抜ける後輪のシフトがまともに機能するようになるなら、とても気分がいいだろうとボクは思った。そして気分がいいことはボクにとても関係が深い。即座にケーブルを、インナーもアウターも両方とも、そして後輪の方へ伸びている側とペダルの方へ伸びている側の両方ともを交換することを依頼した。
15 分ほどで終わる予定の作業完了連絡の電話が鳴ったのは 20 分くら経ったころだと思う。本当はお昼でも済ませてから受け取ろうと計画していたのだれけど、彼が電話をかける方がボクが昼食の店を選び終えるより先だったから、受取の方を先に回した。
店に戻って、自転車を受け取る。乗ってみてくださいと促されて、乗る。漕ぎ始めは歩道だったから、シフトチェンジはしない。ソロリソロリ、車道まで漕ぐ。そして車道に出てから、シフトを切り替えてみる。もちろん後輪の方のを、1段ずつ。試乗の距離を短くするために、1、2、3、と手早く。そしていつも不整脈みたいになる 6段目だか 7段目だかを確かめるようにして1段づつ、慎重に変速してみる。6段目も 7段目も 8段目も、正しく確実に1段ずつ、チェーンを掛けかえる音を鳴らし、時々でペダルの重さをユニークに変化させ、そして自転車が進む速度を変えさせた。
およそさっきまでのと同じ乗り物とは思えない、クッキリとクリアなシフトの操作感に、新しい機械を手にしたのと似た気持ちの高揚を覚えた。ワイヤーを交換した確からしい効果を実感して試乗を終え、スタッフへ感謝を伝え、会計を済ませて、そしてさっきみかけたステーキ店に向かった。
自転車のワイヤーは、新しいのに限る。