中央区日本橋の奈良まほろば館前にて。

Tokyo, Nara-Mahoroba Sento-kun, Photo by Mubz

6月にしては予想外に強い日の光で、7月の初夏の頃のような気候だったその日の三越前。ボクたちが暑い思いをしてそんな所をうろついていたのは、昼食の店を見つけるためだ。小径車のシフト用ワイヤー交換を依頼して、自転車を預けている間の持て余した時間に、昼食を済ませてしまおうという算段だ。

この近所に住み始めてからちょっとした期間が経ったけど、知ったレストランの数は少ない。繁華街の人混みは好きではない。それにまずグルメではない。むしろどちらかへ分類するなら疎い方だ。だから知ったレストランなどというものはほとんどない。そのかわり、この街ならどの方角へ進もうともどの角を曲がろうともどのビルへ上がろうとも、少しばかりの空腹を満たすための店なら必ずといっていいほどある。

Tokyo restrant, Photo by Mubz

路面のステーキ店、上等な鰻やを手繰りながら、もうすこし目新しくてできたら庶民的な値段のレストランが無いかと、中央通沿いを歩く。通りの向かいにある日本橋三越に飛び込んでしまえば、あるいは三井記念美術館に、向かいへ渡らずともコレド室町へ引き返せば、豪勢すぎるランチに預かることは容易だった。が、ついさっき3,000円とちょっとのワイヤーを購入したばかりだ。豪勢では逆に気が引ける。

中央通りは江戸橋界隈をひととき散策することになったのはこういう訳だ。

中央通り沿い、江戸橋手前といえば三越だ。三越前といえば、今でもそれなりに立派な繁華街だ。デコレーションたっぷりの古めかしい建物が居並ぶ。買い物ができる場所も多い。刃物の老舗木屋も元の居場所から50Mと離れていない真新しいビルの1Fへ移転してまだ間もない。ボクには前の木屋の方が数倍好ましく感じられるけど。ともかく繁盛してるのには違いない。もちろん生活に根ざした老舗の店に限らず、観光客目当ての、あるいは郊外客目当ての店も繁盛するらしい。

奈良まほろば館という施設が、日本橋三越の正面にある。文字通り、奈良の広報を兼ねて物産品を東京で販売するコンセプトの施設だ。広報的な目的が大きいため、店とか商業施設というのは憚られる、生粋の商売人からしたら暢気な施設といっていい。この暢気な施設のエントランスに建ち、真正面の三越を、あるいはその 1ブロック向こう側の日本銀行を望むのが写真のせんとくんだ。

ボクたちがその奈良まほろば館にさしかかるころ、黄色い声色が観光であることをあからさまにする少女が 2人、浮ついた足取りでこの奈良まほろば館の前に建つせんとくんと居並んで記念写真を撮影を済ませ、それから施設へ吸い込まれた。ボクたちもこれに続いた。中はそれなりに見慣れる品が揃っていた。生鮮野菜も、レトルトパックの食品、菓子、酒、雑貨などだ。そのなかでも特にボクの気を惹いたのはレジ足下の棚に陳列された雪駄だった。これからの季節に近所ではくにはもってこいだと思えた。だけど、雪駄というのは最初の時点では花尾がキツ目に設定されているということを聞かされて、断念した。

同じ施設の奥の方には、小さなイベント用スペースが儲けられていて、そこでは先に吸い込まれていった少女たちが金魚すくいに興じていた。
このとき、ボクらは昼食の事はすっかり忘れてしまっていた。


きものやさん 男の雪駄