セス・ゴーディンの著書「パーミッション・マーケティング」を読みました。

Mubz snap, パーミッションマーケティング

セス・ゴーディンの著書を読むのは今回が初めてでした。面白かった。満足まんぞく。
インターネット初といわれるダイレクト・マーケッティング企業「ヨーヨーダイン」を設立し、1988年これを Yahooへ売却というキャリアを持つセス・ゴーディンのマーケッティング論。

綺麗ごとばかりも言っていれない事情はよくわかるけど、やっちゃいけないことってのもあって。本人承諾を得ないリストの売買とかさ。そういったモラルや法律に触れる最低限度の価値判断はもちろんだけどそれだけじゃなく最上限度の面白くて幸せな気分を目指すマーケッティング活動でないと寂しいんだゼ、と思っているマーケッターのひとこそ是非。

本書「パーミッション・マーケッティング」では、マス活用による大量露出型広告などのインタラプション・マーケッティング(土足マーケッティング)に対して、顧客の許可確認を得ながら関係を深めていくやり方のマーケッティングを「パーミッション・マーケッティング」と位置づけて、その基本的な考え方、ほかのマーケッティングとパーミッション・マーケッティングとの目的、手法、効果の違いについて解説しています。

まずはパーミッション・マーケティングの考え方について。インタラプション・マーケッティングにせよ、パーミッション・マーケッティングにせよ、どちらの場合も基本的には、忙しい顧客の日常に割って入って邪魔をするものだという認識です。邪魔者です。はなつまみです。ひどくなればスパムです。この考え方の1番目が、ものすごく強く共感し信じる部分でもあります。
さてどっちにせよ邪魔者だからさあどうするかというときに、パーミッションマーケッティングでは、顧客の許可を取りつける事にするんだそうです。それは顧客の興味関心に応じた何かしらを用意して顧客に挑むということと表裏ということになります。書中の表現をとるならデートに誘う・デートに行く・求婚する。そういう段階的な進行が必要となりますし、各段階ごとに相手の関心を引くに足る、次の段階への許可を獲得するための気の利いた仕掛けも必要になりますよ。正直手間がかかります。が、確度は悪くないのだそう。そういうのがパーミッションマーケッティングの基本的な考え方のようです。

次はパーミッション・マーケティングの方法の話。極端に端折った言い方をすると、消費者との間の信頼関係を信じてマーケッティングをやってゆけば、それは企業にとって永いこと活用しうる資産になりますよということ。
顧客の邪魔をする許可を顧客から得ること。それから許可してくれた顧客の信頼を裏切らないこと。そういうのが、ほかのマーケッティングの目的と大きく違うところになる思います。
また、方法としては、インターネットを使うやり方はもちろん本書の中での位置づけは小さくないのですが、反面、取り扱う商品サービスの性質によっては、インターネットを使わない方がより有利であるという事例も(僅かながら)示されています。ただ相対的にみてインターネットを上手に使う方法の紹介が多いです。まず、それこそ何より最初に必要となる顧客の許可の取り付けをはじめとする双方向の情報のやり取りができて、顧客一人ひとりの趣向に最適化した形で情報なり値を返すことができる(そしてほかの手段よりも安価な)道具としてインターネットが存在しているわけなので、その特性を生かすべきだろうという範囲でのインターネット活用方法の紹介というニュアンスです。逆さまに言うなら、封筒でのDM送付に効果が無いなどという極論は本書の中には描かれていないです。好感。
それに加えて、インターネットをテレビなどのメディアと似たような物として位置づけようとする勢力、その裏事情、さらにはインターネットはそれらとまったく異種のものであるという論拠が示されています。この辺のこと(ほかのメディアとは違う、というかメディアの役割も果たすがそれそのものでない)はさんざん判っているつもりでも、日常の業務に身を浸したとたんに流されてしまう・忘れてしまうこともままあるので、たまに本書を手に取って読み返したいなと、個人的には感じられました。
またこの種のマーケッティング論では当然の設定ではありますが、顧客ひとりあたりの獲得単価と獲得顧客の生涯価値は、その方法の選び方の指標として重視されている印象です。価値のはかり方は、そもそもの企業やブランドの永続性にもよるところがあるからどこまで穿り返しても推測でしかないわけです。一ヶ月後につぶれる(という未来が判る)んだとしたら、顧客獲得単価がどれほど高価でも速度に勝るテレビCMを使うほうが良いでしょうし。永続性と資産管理・運用に充分な自負心があるならパーミッション・マーケッティングは優れた手法だろうという感じで理解。
そして甚だ重要な注意点ですが「別にSMOだのSMMだの、Facebookをビジネスに活用なんてことは鐚一文書いてないよ」です。ええ書いてません。書く必要はありません。そんなものはFacebook の規定が許す範囲で各自勝手に遣ればいいし、その暇がないひとと企業はソーシャル(社交)など参加しないという選択で正解だと予想されますからね。

最後にパーミッション・マーケティングの効果について。もうそれは、上に挙げた土足マーケッティングよりもパーミッション・マーケッティングの方が、効果的であると信じているからこそ本書を書いていると思いますが、いくつかの条件が伴ってはじめてパーミッションマーケッティングが効果的だというニュアンスで描かれています。
また特徴的で面白いのが、所謂顧客候補リストの獲得そのものを目的とするマーケッティング活動として有効かどうかというよりも、消費者と「出会う」ところから「買う」行為までの全部をマーケッティングとして位置づけていること。つまり露出が大事なんじゃなくて何名が購入したかや、何年間購入し続けるかの方に比重を持たせたマーケティングの効果測定を前提にしていること。つまり露出、コミュニケーションからEコマースそのものまでが一貫したフローとして束ねられたうえでのマーケッティング。あたりまえといえばそうなのですが、企業の縦割り故か外部パートナーの専門性分散故か、なかなか一連として考えが及ばないのが現実だったりしますよね。
インターネットがあたりまえの時代に即した考え方だと思います。

てわけで、総論かつ雑感になりますが。組織のためといえ、銭金のためといえ、自分の営業成績のためといえ、ほかのどんな理由をそなえていても、そんなものはクソでも食らえ。自分がされちゃ困るマーケッティングを他人に対してましてや顧客に対してやったらダメだよね。当たり前。


パーミッション・マーケティング(セス・ゴーディン)