しっかりとした契約条件管理をするひとがいる。しっかりとしたチーム体制を築き上げるひとがいる。しっかりとしたコンプライアンス思慮を持ったひとがいる。ゴールを見据えたプランニングをするひとがいる。硬軟織り交ぜたディレクションをするひとがいる。ハードウェアとしてはいっぱしのものが揃っているはずなのに、それでもまだ、なにかがうまくいかない。円滑にすすまない。やっつけになってしまっている事柄がある。
歯車の数がたりないというより、潤滑油の方が足りないか、歯車の歯がかみ合ってないかというニュアンス。

たぶんそれは、成員ひとりひとりの感受性だとか。成員同士の意思疎通の度だとか。成員間のゴールイメージの一致だとか。そんなんなんじゃないかなと考える。

それでもって。
感受性を高めるには、航海についての知識の量と航海の経験の量がそもそも必要になるのと、現在と知識経験を照らしあわせて違和感を探り出す準備がなくちゃいけない。それには時間と、心理的余裕がないといけない。
意思疎通には、他の成員とその担う役割への尊敬がそなわっていなくちゃならない。もしも尊敬の念がなければそもそも相手の話を聞かない、聞いてもらえない。従わせようとする。相手の役割への尊敬の念は、過去の航海で助けられた経験がものをいう。助けられたかどうかの判定は助けられた側の自己認識、とくに自尊心による。あまりに自尊心が強いと、助けられた事そのものを認識できない場合がある。つまり自尊心が強すぎると意思疎通不全の原因になる場合がある。もっというと意思疎通ができていないことの方を尺度にして自尊心を推し量ることができるとしてしまうほうが適切かもしれない。強すぎる自尊心を氷解させるには、時間と、心理的余裕がないといけない。
ゴールイメージは、目的地である港の座標と方角がどこかというだけじゃない。順路航路が示されなくてはならないし、それは地点AとBとのあいだにひかれた一直線ではない場合の方がよほどおおい。道程障害になりそうな、それはたとえば進路を阻む岩礁や不慮の悪天候だとか紛争地帯だとか予想内外の何か、そういう情報収集と周到な航路組み上げと臨機応変な航路の組み直しと組み直しの事実の周知を必要とする。今まさに進み行く船上での航路の組み直し作業と不安にさいなまれる成員たちへの周知は、時間と、心理的余裕がないといけない。

というわけで、だーいぶ無理矢理感あるけど、それでも何かがうまくいかないなって感じるときには、とりあえず時間の確保と心理的余裕の確保が当座の処方箋なんじゃないかと思う。ただしこんなものはたかだか応急処置でしかない。そもそものところでプロジェクトへの畏敬の念をどうやって準備するか、維持するか、共有するかってことが本質になってくるとおもう。頭数ごとの役割分担では説明のつかない基礎的なマインドんとこで。
また反対に、大勢で事にあたること、大急ぎでやること、叱られないようにすること、いわれたことをしっかりやること、徹夜でやっていること、死ぬ気でやっていること、費用が足りないこと、難しいことに取り組んでいることと、ことがらそのものへの畏敬の念をもってやることととは全然関係がない。くれぐれも。


畏敬 オットー・フリ-ドリヒ・ボルノー