尾関憲一著「時代をつかむ!ブラブラ仕事術」を読みました。
NHK「ブラタモリ」のプロデューサーの方の著書です。現状、自分の頭の中でプロデューサーという仕事を今一度おさらいしておきたい気持ちがふつふつと沸いておりまして。そいった経緯で偶々通りがかった本書に手が伸びちゃいました。

読後の感触は、やっぱり素敵な商売なんではないだろうかということ。素敵な仕事なんだけど、自分の考えを堅持することがとても難しいポジションでもありますな、と再認識。自分の考えを頑として保持することが難しいのは、この職業にかぎらず世の常ではありますけども。でもこの職業の難しさを言えば、ひとつには横槍を入れて来る外野の数がとても多いこと。もうひとつには「絶対に成功」する根拠など、虚勢をはる場合を除けば、絶対にないということ。

ツッコミを入れる外野というのはチームのスタッフ等もそうですし、同じ会社の上長もまたそう。で、どちらが手強いかといえば意思決定権限を持っている上長の説得になるのかなと思います。そもそも上長には権限と責任がありますし、それに加えて当然経験もありますから一筋縄ではいきません。もちろん採算ベースと親心で「それじゃだめだぞ」と叱咤してくれているのだと思われます。が、それでも難しさがあるのは、たとえ上長といえど時代の趨勢を読めているか、今のトレンドを読めているか。その点に関しては結構そうでもないケースは多いのではないかとおもいます。管理職に廻った時点で、鈍るものもありますしね。そしてその場合世のトレンドはこうなんですよという説明は、あまり有効ではない事の方が多いんじゃないかなと感じます。相当譲ってもらって「オマエがそういうなら、やってみろ」という保身ベースの応援というのが平凡な着陸姿勢であり、「おうおうそうだね!僕もそう感じてる、是非やりたまえ!」とはなりません。それじゃ仮に失敗したときにも責任を背負う色合いが濃くなってしまいますからあまり望めません。さらに、もうひとつ手強い相手は当然顧客。必ずしも顧客があるプロデュースだけじゃないと思いますから、一概じゃありませんが、顧客がある場合にはやっぱりこれへの意識の払い方がメインになってしまいます。彼等には、決して悪いと言うことでなく、創造する対象物に関する或いは創造するプロセスに関する専門性が備わっていませんから、方法論、技術論が通じない相手です。しそれに先方は先方で、事程左様にノルマ、目標の重荷を背負わされているわけですから「いっそ方法なんかどうでもいいから、プロセスなんかもどうでもいいから、ブランドに抵触しない範囲内で、絶対に当たる(成果が出る)ヤツでやってくれ」というのが直情的なリクエストの骨格になります。まあ全権を任せていただけるなら、それはそれで悪くない追い風と言えなくもありませんが、案外各論にあたる方法論についての議論を切欠にして本論たる目的やコンセプトまでをもダメにしてしまう折衝はかなり多いようにおもいます。
彼等の視点では作り物はそれ自体が道具なんであり、それそのものが作品であるとかそれそのものがユーザーにとっての生活環境あるいは娯楽そのものであるという意識がスッポリと抜け落ちるのは無理からぬことです。仮にそのことを顧客へ説明したとしても、その場はともかく、すぐ後にあっさりと忘却の彼方です。なぜなら先方もまた組織ですので、上へ上への稟議の流れの中で、読み取るべき情報が目標数値なり実現可能性なりコストなりの数値情報に修練してゆき作るべき物そのもののありさまはオマケでしかなくなる現象が起こります故。仕方ない。彼等の仕事はまずなにより金を出すこと。金を出したら、一旦そこで仕事は手離れするわけですから、そりゃあそうです。だけどそうじゃない方が、楽しいし、申し送りもコンパクトで済むし、よりよい物作りが可能になるにきまってるのですけど。

ふたつめの成功については、ますます厄介です。出目は振らなくちゃ判らないのですし、創り上げたプロダクトへの反応は、結局市場に並べない限り判りません。なのですが、着手前の冒頭で、勝利請負人みたいなポーズを求められる場合は多いんじゃないかとおもいます。ま、ポーズを作るだけならばある種無責任にお望みのポーズをとるのみです。尖ってますとか、過去実績が豊富ですとか、名前が売れてますとか。が、そうするとポージング合戦がすなわちコンペの主題といった様相になったりします。どんなにポーズが決まっていたって、実制作とそれからリリース以後の運用がスタートしてみなくてはものの是非は判らないのです。けれども、なぜかそこまでのことはあまり検討されることは無い気がします。そういうのは便宜上と言うことなんですかね。さらにもういっぽ踏み込んで言えば、初期のポーズが格好いいほど運用段階の成長性のなさとのギャップは甚だしくなります。そうして意志決定者はポーズを眺めて出資なり発注を固めて、あとのことは知らんとなるのですがあとのことを任される現場としてはたまったものではありませんね。そして、勝つ理由というものがあるのだとすれば、そしてそれが案外と派手さや定番感のないものだとしたら、なおのこと通すのは難しいですよね。仮に、気の抜けた感じがヒットの理由とかそういうパターンがあった場合。プレゼンで気の抜けた感じそのものが伝えられるかどうか、そして伝わったとしても気の抜けたクリエイティブに賭ける勇気を奮い立たせられるか。そういう話になってきます。難しい。

その点でブラタモリの企画がどうやって生まれたのかもそうですが、ブラタモリの企画をどうやって社内で通したのか。後者についての記述は参考になります。


時代をつかむ!ブラブラ仕事術