アメリカ合衆国で同時多発テロが発生した。
マンハッタンの超高層ビルワールドトレードセンターへ旅客機が追突。数多くの被害者を出した。201年9月11日のことだ。


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その後17年後の9月11日の日。大腸内視鏡検査を受けた。
自覚症状は明瞭で、3日連続の下血(鮮血)。
「ああ、いよいよ来ましたか」と。何か寄る年波には勝てませんよね的な達観めいた初期の感想。我が家では父親というものとながく縁遠かったのだけど、その父親とセットで記憶される数少ないトピックが肺がんとポリープ。あとはダンヒルのライターとかどこ製かわからないスーツケースとか。腹を括ったわけじゃないけど、下血の原因なんかいくつかしか考えられないわけで。がんか、ポリープか、腸炎か、痔かそんなところ。のはず。

早速行きつけのクリニックで、消化器を受診。先生に症状を伝える。電子カルテのタイトル欄には「大腸がんの疑い」と記される。これに、驚かない。組織に属して責任ある職についている人間なら多くの割合がそう書くだろうから。
最大で見込んで大腸ガンの可能性があり、検査に当たることとなった。予約はその場で口頭で、じゃあ来週の月曜日の朝に、と。
そこで診察は終わり、看護師から検査当日の迎え方、をレクチャーされる。

検査前日夜はうどんなど消化にいいものを。アルコールはダメ。検査当日は、腸内を空っぽにするための薬剤を2L分飲むことになる。半分の1L程度の水は自分で用意すること。ただし院内に自販機があるし、近所にコンビニもあるということ。
検査は30分程度になる。人によって腸の形が様々あり内視鏡が通らない場合がある。ポリープが見つかった場合にはその場処置に当たる同意書にサインすること。検査の間は鎮静剤が入ること。したがって公共の交通機関を利用すること、など。

検査当日、例の2Lを目の当たりに。瓶入りを想像していたわけでもないが、点滴液と同じようなビニール製の容器に入った、モビプレップ2L。モビプレップ2杯に対し水1杯の比率で空になるまで飲み尽くせということ。水を挟むのは脱水を防ぐ目的。と言われていたが、正味のところ、モビプレップの変な味と口内に残るその後味の悪さを誤魔化すために水が不可欠。
看護師によると、モビプレップは「梅のような味」ということだった。確かに少ししょっぱい味だけど、梅とかそんな上等な味わいではない。梅よりずっと生臭いし、不思議と体が受け付けない、飲み下せない代物だった。
これを1.5Lほど飲みおえた頃から急速に便意が発生し、その後は短時間の間に7、8回トイレに行くことになる。おおよそ5分おきという所だった気がする。便器内の便がほぼ無色透明になる頃に看護師を呼んでチェックさせ、OKがでたら検査の準備が完了となる。担当の看護師はほんのごく小さな残りカスも見逃してくれなかった。次の転職先はカリタとかハリオとかメリタにするといい。

お腹の準備が整った。診察室へ移動し、寝台に寝かされ、検査中に何度か体を上を向けたり左に向ける場合がることを告げられ、肘の内側になかなかに太い点滴針を2度も刺され、点滴が流し込まれ始めた。看護師の担当パートが終わるか終わらないかのタイミングを見計らってか、医師が登場する。
既に鎮静剤が効いているせいなのか、あるいは単なる諦めなのか、検査への不安は特に感じず、もうどうでも良いような気分になってしまった。
脇のモニターに腸内が投影されることやなんやの説明を受けたかもしれない、そうではないかもしれない。膝を立てるとか横を向くとか、何か他の説明もあったかもしれないし、なかったかもしれないけど、程なくあっさり「お尻の当たりが冷たくなりますねー」を号令に挿管、検査はスタートした。

痛み、という点では口の端っこに指を引っ掛けて引っ張るような種類の痛みの、さらに強めのものはあったと思う。金属か何か硬質なものが体内にある不愉快さもあったと思う。カテーテルのように奥へ奥へ物体が入り込んでくる違和感もある。けど、先に考えてたほどの辛いものではなく、まあ、普通に耐えられる程度に思えた。心地よくはもちろんないが、全く我慢ならないというほどでもない。ああこれならまあなんとか。途中モニターに写ってる模様について、何度か話しかけられたけど、モニターには一目もくれず、医師のいうことに生返事だけして流した。検査は案外手短に終わった。

管が抜かれ、寝台から降り、場所を移してリクライニング式のソファーで30分休憩。点滴はまだ繋がっている。このソファーの上で診断結果を聞くことになる。
結果「問題なし」だそうだ。いくつかのポリープ未満や憩室が見られるがまるで特別でなく、処置に能わずだそう。唯一の所見が「内痔核の傾向が見られますね」のみ。たかが痔核のために、こんなに大層な検査を受けたのかという無意味な落胆を覚えた。得たものは内痔核… もちろんこれは脊髄反射的な感想で、本当にそんなことを思ってるわけではない。正しくは「大腸がんでなくて、その他の深刻な病気じゃなくて良かった」。追加検査も、継続受診も何もいらない。晴れて自由かつ安心の身となった。この清々が欲しかった。

その後、点滴が外され、着替えと支払い(数千円)を済ませ、病院を後にした。
アンチ鎮静剤として、気付け薬のようなものが効いているようで、シャキシャキと身動きできた。