いつもの神田のほうの書店ですごい勢いで平積みになっていた 牧野武文(著)「Googleの正体」 (マイコミ新書) を読みました。
グーグルの直近のサービスの動向紹介あり、グーグルの収益モデルの解説あり、グーグルの及ぼす社会への影響あり、グーグルと世界の未来ありって感じで、結構盛り沢山な内容が、順を追って解りやすく案内されています。
グーグルを巡るざまざまの情報や文脈についての、著者牧野さんの洞察と意見について、個人的には違和感なく受け入れることができました。が、本書の相当部分が断片情報から著者の手によって組み立てられたストーリーと思われ、もいっぽ、裏付けが欲しい気がします。
とはいえ、主観になりますが、ビジネスの側面、サービスの側面、ユーザーの側面、社会経済の側面、倫理の側面など比較的全体観に長け、また各要素の組み合わせから無理のない解を導くのに長けた印象です。著者の力量ということになるんでしょうね。こういう感覚の本、ボクは好きです。オススメ。
脱線しますが、恥ずかしながら、本書を通じてはじめて知った「Google ウェブ履歴」は、自分で試してみて…驚愕。まだ試していないみなさんは、是非。(そして驚け)
http://www.google.com/history/
上で褒め足りない点が、解りやすさ。この手の書籍にしては、理解促進の助けとなる自然で上手なレトリックが多数見受けられました。おかげでボクもすごい読みやすく、理解しやすく、自分のまとめきれない考えを代わりにまとめてもらったような心地よい感じすら受けました。
ボクが気になった・気に入った箇所を、引用で掲載しておきます。このいずれかに食指が動くヒトは買って読むと良いですよ。
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マイクロソフトにとって、グーグルは窓の中だけで行われるサービスにしかすぎなかった。しかし、デスクトップ検索で、グーグルは窓から部屋の中にまで侵入してきたのだ。マイクロソフトから見れば、不法侵入をされた気分だっただろう。25
一般の日本語入力は口語的な表現や俗語的な表現に弱かったが、グーグル日本語入力にはそのような弱点はない。「何十年もかけて、研究し、練り上げていた従来の日本語入力の努力がバカみたいにみえる」といったような声がインターネット上ではあがっており、その意見を全否定することは誰にもできないだろう。33
いわば赤字でもサービスを提供してしまうわけで、同種のサービスを提供しているライバル企業は頭を抱えるどころではなく、怒りさえ覚えているのではないだろうか。44
グーグルが、このような大盤振る舞いのサービスを次々と提供できるのは、莫大な利益を得ているからだ。グーグルの年間売上は2兆円を超えている。
しかも、創業わずか6年でナスダック上場を果たし、日経ヴェリタスが発表した世界株式時価総額ランキングでは第19位に位置している(2009年7月末時点)。46
こんな地味でさりげない、夕刊紙の三行広告のようなもので、どうして2兆円もの売上が達成できるのか。単純計算では、200億クリック以上されなければならないことになる。48
しかし、ここにグーグルの偉大な発見があった。塵も積もれば山となるで、アドワーズ広告が莫大な利益があげられるビジネスであることを世界で最初に発見したのだ。50
プロモーションメディア広告とは、屋外広告、交通広告、折込広告、ダイレクトメール(DM)、フリーペーパー・フリーマガジン、ポップ(POP)、電話帳、展示・映像他の8つのことだ。
このプロモーションメディア広告市場は、実はテレビ広告よりも大きい。77
テレビでは、地方の商店街の風景を「シャッター通り」と称して紹介することが多いが、実はユニークな商品開発に成功した店舗は、あのシャッターの裏側で受注作業に大忙しという例は結構ある。95
さて、日本ではグーグルよりもヤフーのほうが人気があり、その原因を「ヤフーのような賑やかなポータルサイトは日本人好みだから」と分析する評論家が多いが、このグローバル時代に日本人だけが特殊な嗜好をもっているという考え方をいつまでも引きずっていると、道を見誤ることになる。98
あとの2.5人は、インターネットを見たこともないか、街に出かけたときにインターネットカフェなどで見るしかない。この「残りの2.5人」にどうやってグーグルを使ってもらうか。グーグルCEOであったら当然考えなければならない問題だろう。100
世界の携帯電話人口は、ITU(国際電気通信連合)の発表によると、2009年度中に46億人を突破するといわれている。(中略)1人で複数台を契約している例もあるだろうが、それを考慮に入れても、世界の携帯電話人口は40億人を超えていることだろう。102
日本などの成熟した市場向けには、アンドロイドにさらに付加機能をつけ、アイフォーンの対抗機種として投入することになるだろうが、これはアンドロイド携帯電話の本質ではない。110
今、インターネットをすでに使っている19億人は、グーグルも利用するし他のアプリケーションも利用するが、次の19億人のほとんどの人はすべてをグーグルで済ませてしまうことになるだろう。121
これは自分が最近数年間にグーグル検索をしたキーワード、その結果閲覧したウェブ、見た写真や映像、クリックした広告、地図を検索した結果などが、すべて一覧で表示されるのだ。142
当時、サーゲイは論文の中で「広告は検索結果を腐敗させる」とすら言い切っていた。これは理にかなった考え方だった。149
ただし、結果的にグロスのゴートゥードットコムは生き残ることはできなかった。グロスは徹底したビジネスマンであるがゆえに、利用者指向の考え方が薄く、墓穴を掘ってしまったのだ。ゴートゥードットコムの検索結果では、広告主のサイトが上位に表示される。しかもその順番は支払った広告料の多い順だった。154
しかし、グーグルはこの表示順をクリック率を基本にした。つまり、利用者がたくさんクリックした広告を上位に表示したのだ。159
しかし、グーグルのデータセンターは、近所の量販店で販売されているパソコンを数百万台使うという従来なかった方法で構成されている。
この特徴は「若者が手作りで大きくしてきた企業だからこそ」という文脈で、一種のおとぎ話的に語られることが多いが、実はその裏にはコスト意識という合理的な計算がある。161
グーグルが次々と発表する新しいサービスは、実は「世界中の情報を整理する」技術か、「世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」技術かのいずれかである。170
一方、グーグルはこのような政府の方針を警戒しており、2006年には司法当局からの情報提供を拒否するという事件を起こしている。184
むしろ、「世界の情報を集積、整理するためには他人の権利を多少侵害したって仕方ないじゃないか」という21世紀型の天真爛漫さに映るのは私だけだろうか。192
いわば、貧困という疫病を隔離することによって、私たち先進国の人間は豊かな生活を楽しめていたのだ。
グーグルがやろうとしていることは、この壁を崩そうとしていることだ。201
全体の議決権で見ると、ラリーとサーゲイの創業者の2人が5割超、その他グーグル関係者を加えた全体で7割を超え、さらにA株についても、ほとんどが長期投資家が保有しており、固定株主比率は35%以上だといわれている。
それから、本書の目次も載せておきます。
はじめに
第1章 不気味なグーグル
クロムOSの衝撃
マイクロソフトとの最終戦争が始まる
グーグルは足長おじさんか?
収益モデルが見えない地図系ソフト
黒字化への道が見えないユーチューブ
グーグルブック検索は慈善事業か?
利益のあがらないプラットフォームビジネス
グーグルは何がしたいのか?第2章 富が湧き出す仕組み
なぜこれだけ大盤振る舞いができるのか
グーグルの偉大な発見
もっとも大きな広告市場はテレビ広告ではない
受動視聴から能動視聴への変化
AIDMAからAISASへの変化
広告の鍵を握る記憶ステージのゼロ化
ローカル広告はインターネット広告へシフト
新たに生まれたスモールビジネス
ロングテールビジネスとは?
ロングテールは死に筋復活の魔法ではない
新たなるビジネスを創造したグーグル第3章 拡大・成長のための最強戦略
慈善事業ばかりでなぜ成長できるのか?
グーグルを大数の法則で読む
グーグルの売上を決めるもの
グーグルの成長戦略1…トラフィックを買う
グーグルの成長戦略2…海外に展開する
グーグルの成長戦略3…インターネットを普及させる
アンドロイドのターゲット
OLPC、ネットブック、クロムOSのつながり
グーグルアップスでユーザーを増やす
グーグルの成長戦略4…モバイル利用を拡大させる
検索の発火点が低くなるモバイル利用とグーグルゴーグルズ
広告の効果が飛躍的に増すモバイル検索
グーグルの成長戦略5…行動ターゲティング広告にシフトする
ウェブ履歴が広告効率を変える
行動まで把握する広告第4章 成り立ちから読み解くグーグルの姿
グーグルとは何者なのか?
共同研究から始まったグーグル
広告を悪だと嫌うグーグル
誰も注目しなかった検索エンジンビジネス
検索連動型広告の発明が時代を変えた
利用者指向ではないことが墓穴を掘る
徹底した利用者目線
十字軍と商人のドリームチーム
十字軍と商人の間の矛盾
利用者のプライバシーを侵すのか?守るのか?
表現の自由を守るグーグル
他者の権利に対するグーグルのスタンス
グーグルの天真爛漫さ第5章 グーグルと私たちの未来
現実世界に乗り出すグーグル
貧困問題に興味を持つ創業者の2人
代替燃料と無線LANに興味を持つグーグル
貧困はなくならない、拡散をしていく
グーグルへの信頼はまだ足りない
グーグルは変節しないのか?
変節させないための種類株という仕掛け
BとCの間がグーグルのポジション
変節したテレビ広告おわりに
毎日コミュニケーションズ
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